相続/遺産分割

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相続の解説(一般的なこと)

相続とは、ある人が亡くなった際に、その人が所有していた財産や権利、義務を法律上他の人に引き継ぐことを指します。具体的には、亡くなった人(被相続人)の財産を、法律で定められた相続人や遺言で指定された人が受け継ぐ制度です。

相続には、次のような要素があります:

  1. 相続財産:現金や不動産、車などの有形資産だけでなく、借金などの負債も含まれます。
  2. 相続人:法律上、相続権を持つ人のことです。通常、配偶者、子ども、兄弟姉妹、親などが該当します。
  3. 遺言:亡くなった人が生前に、自分の財産を誰にどのように分配するかを指定した書面のことです。遺言が有効であれば、基本的にその内容に従って財産が分配されます。

相続には、法定相続と遺言相続の2つの種類があります:

  • 法定相続:遺言がない場合、民法で定められたルールに従って相続財産が分配されます。
  • 遺言相続:被相続人が遺言書を残していた場合、その内容に従って相続が行われます。

また、相続には相続税という税金が発生することがあり、一定の条件下で相続した財産の一部を国に納める必要があります。

遺言書の作成 遺言の執行

遺言書の作成は、遺産を自分の希望に従って特定の相続人や第三者に分配するための重要な手段です。遺言書にはいくつかの形式があり、それぞれ法的に有効となるためには特定の要件を満たす必要があります。以下は遺言書の主な形式と作成方法、ポイントです。

遺言書の主な種類

  1. 自筆証書遺言
    • 特徴:遺言者が自分で全文を手書きする遺言書。
    • 要件
      • 遺言の全文、日付、氏名を遺言者が自筆で記入すること。
      • 捺印(印鑑を押すこと)が必要。
    • メリット:比較的簡単に作成できる。
    • デメリット:紛失や偽造、内容の不備による無効リスクがある。
    • 補足:2020年から自筆証書遺言を法務局で保管できる制度が開始され、紛失リスクが減少しました。
  2. 公正証書遺言
    • 特徴:公証人が作成する遺言書。
    • 要件
      • 公証役場で、遺言者が2名以上の証人と共に内容を述べ、公証人が記録する。
      • 遺言者が署名し、公証人が遺言書を保管する。
    • メリット:公証人が内容を確認するため、法的に無効となるリスクが低い。紛失の心配がなく、安全に保管される。
    • デメリット:作成費用がかかる。
  3. 秘密証書遺言
    • 特徴:遺言の内容を秘密にしたまま公証人に証明してもらう形式。
    • 要件
      • 遺言書を自分で作成し、署名・捺印した上で、公証人と2名以上の証人の前で封印する。
    • メリット:内容を誰にも知られずに作成できる。
    • デメリット:遺言内容に不備があった場合、無効になる可能性がある。

遺言書作成時の重要ポイント

  1. 内容の明確化:財産の分配方法を具体的に記載し、不明瞭な部分がないようにすることが重要です。例えば、相続人の名前や相続する財産の具体的な内容(住所、金額など)を明示します。
  2. 遺留分の配慮:法定相続人には「遺留分」と呼ばれる最低限の相続分が法律で保障されています。例えば、配偶者や子供などには一定割合が保証されており、これを侵す遺言は無効になる可能性があります。
  3. 証人の確保:公正証書遺言や秘密証書遺言を作成する場合、信頼できる証人を2名以上立てる必要があります。証人には、相続人やその配偶者など、相続に利害関係がある人はなれません。
  4. 保管方法:自筆証書遺言は特に保管方法に注意が必要です。紛失や改ざんのリスクを防ぐため、安全な場所に保管するか、法務局に預けることが推奨されます。

遺言書の効力

遺言書は、遺言者が亡くなった時に効力を発生しますが、遺言者が生前に遺言書をいつでも変更や撤回することが可能です。また、最新の遺言書が有効となるため、複数の遺言書が存在する場合は、最も新しいものが優先されます。

遺言書は法的な効力を持つため、後々のトラブルを避けるためにも、正確に作成し、公証人や専門家の助言を受けることが推奨されます。

遺産分割協議書の作成

遺産分割協議書とは、相続人が話し合って遺産の分割方法を決めた結果を文書にまとめたものです。この協議書は、相続手続きを進める上で重要な役割を果たし、遺産の名義変更や相続登記、銀行口座の解約などの際に必要となります。

遺産分割協議書の目的

遺産分割協議書は、遺産分割に関する相続人全員の合意を証明するためのものです。これにより、後々の相続に関するトラブルや争いを防ぐことができ、また相続に関する各種手続きがスムーズに進行します。

遺産分割協議書作成の流れ

  1. 相続人の確定
    • 被相続人(亡くなった人)の法定相続人を全員確認します。相続人全員が協議に参加し、合意しなければ協議は無効となります。
    • 戸籍謄本などを取得して、相続人の確認を行います。
  2. 遺産の確定
    • 被相続人の財産と負債をリストアップし、分割対象となる遺産を確定します。不動産、預金、株式などの資産や、借金やローンなどの負債も含まれます。
  3. 協議の実施
    • 相続人全員で話し合い、遺産の分割方法を決めます。相続人同士で納得のいく形で財産を分割する必要があります。遺言書があれば、その内容を尊重して分割を決定しますが、相続人全員の同意があれば遺言と異なる分割も可能です。
  4. 遺産分割協議書の作成
    • 協議が成立したら、その内容を文書にまとめます。協議書には、相続財産の具体的な分割方法や相続人の署名、押印が必要です。

遺産分割協議書の記載内容

遺産分割協議書には、以下のような内容を正確に記載します。

  1. 被相続人の情報
    • 被相続人の氏名、死亡年月日などを記載。
  2. 相続人の情報
    • 全相続人の氏名、住所、続柄を記載。法定相続人全員が参加していることが確認できるようにします。
  3. 相続財産の内容
    • 財産の詳細な情報を記載。例えば、不動産の場合は土地の所在地、登記簿上の面積、地番など。預金の場合は銀行名や支店名、口座番号など。
  4. 分割方法の詳細
    • それぞれの財産を誰がどのように相続するか、具体的に記載します。
    • 財産のうち、不動産や金融資産などは、相続人の間でどのように分けるのか(持ち分や金額など)を明確に示す必要があります。
  5. 相続人の署名・捺印
    • 相続人全員の署名と実印の押印が必要です。また、実印を押した各相続人の印鑑証明書を添付することが一般的です。

遺産分割協議書の形式

遺産分割協議書には、特に決まったフォーマットはありませんが、通常は次のような構成になります。

  1. 表題:「遺産分割協議書」と明記します。
  2. 被相続人と相続人の情報を最初に記載。
  3. 遺産の分割内容を具体的に列挙します。
  4. 最後に、相続人全員の署名・捺印欄を設け、実印を押印します。

遺産分割協議書作成時の注意点

  1. 全相続人の合意が必要:法定相続人全員が協議に参加し、全員の合意がなければ無効です。一人でも参加しなかったり、同意しなかったりすると、遺産分割協議書は無効になります。
  2. 公正証書化も検討:将来のトラブルを避けるために、遺産分割協議書を公証人役場で公正証書として作成することも可能です。公正証書にすることで、遺産分割協議書の信頼性や証拠力が向上します。
  3. 不動産の登記:不動産を相続する場合、遺産分割協議書をもとに名義変更の登記手続きを行います。協議書がないと、名義変更ができません。
  4. 銀行口座の解約や資産の分配:金融機関では遺産分割協議書が必要となるため、これを提出して預金の解約や相続手続きが進められます。

協議書の作成に専門家を活用する場合

相続は複雑であり、相続人同士での話し合いが難航することもあります。そのため、弁護士や税理士、司法書士などの専門家に依頼して、遺産分割協議書の作成や調整をサポートしてもらうことも選択肢の一つです。専門家の関与により、法的に適正な協議書が作成され、後々のトラブルを避けることができます。

財産によって異なる相続手続

4o被相続人が死亡すると、その人の財産は相続財産となり、なにもしなくても、原則は法定相続人が借金も含めて全てを引き継ぐことになります。各相続人の相続分や受け取る具体的な資産は、被相続人の遺言や相続人同士の話し合い、すなわち遺産分割協議、場合によっては裁判所の調停とか審判、訴訟の結果により決められることになります。

相続財産には、土地・建物などの不動産をはじめとして、不動産にかかわる借地権や借家権など、また銀行預金や郵便預金、関連するローンなど、また自動車などがあります。また、借金ではなくで他人に貸しているお金や売掛金などもあります。

これらの財産について相続人は遺言書や遺産分割協議によって各相続人に分けられますが、一定の法的手続きをとらないと実際には相続人のものにはならない、つまり相続の効果が生じない資産も少なくありません。

ページに分けて、各資産に特有の必要な手続きについて説明しますが、ここでは、どの相続手続にも必要な共通の書類について簡単に列記しておきます。

被相続人の戸籍謄本 (原則、すべての相続手続きに必要です)

相続手続においては、被相続人と相続人の関係を特定するため、被相続人の出生から死亡までの途切れることの無い戸籍籍謄本が必要とされます。途切れることがないということは、例えば被相続人が結婚して自ら戸籍筆頭者となって新たな戸籍を創設することもありますし、その後、子の出生、養子縁組、場合によっては離婚、再婚、養子離縁など人生のいろいろな変遷が戸籍に記載されます。

相続手続をする場合は、過去の戸籍上の身分関係が確定しないと相続人も確定されないため、このように一連の戸籍が必要とされます。

戸籍は完全でない!

私の今までの経験でも、転籍後の戸籍に記入漏れがあって戸籍が繋がらないケースがありました。この場合は、その旨申立をして、職権で訂正し完備したこともあります。

先の太平洋戦争による空襲で戸籍が消失し存在しないケースもいまだに多くあります。東京大空襲によって東京文京区では戦時中の戸籍の消失してないものについては、空襲による消失の事実の証明を発行してもらい、それをもって戸籍証明に変えることにしています。

  • 被相続人の除斥謄本
  • 相続人の戸籍謄本
  • 相続人の住民票
  • 相続人の印鑑証明

いずれも共通に必要な書類としましたが、実際の手続きでは必要とされないものもあり、これでは全く足りないとされる場合もあります。

生命保険金や退職金の相続手続

被相続人の死亡保険金を受け取れるのは、必ずしも相続人とは限りません。保険金は、保険契約で受取人として指定された人が原則全額を受け取ることになります。この場合には、その受取人が単独で保険会社に支払いを請求すればよく、他に相続人の同意は不要です。このような場合、他の相続人の戸籍謄本とか住民票は基本的には不要です。

逆に、受取人が「本人」とか、「法定相続人」というように指定されていた場合には、保険会社から支払われる死亡保険金も相続財産に含まれ、相続人間の遺産分割協議が必要となり、また関連する戸籍等も要求されることになります。

被相続人がサラリーマンで、会社の退職金規定によって死亡退職金が支給される場合は、会社の退職金規定によることとなります。会社の就業規則で、死亡退職金の受取人が「配偶者」などと特定されていれば、それに従うことになり遺産分割協議は不要となります。

ただし、配偶者であることを証明するために、戸籍謄本、住民票等が必要とされる場合があります。

財産によって必要書類は異なる

実務上必要書類は財産によって、あるいは、法定相続人はだれかによって、遺産分割協議の結果、実際にその財産をもらう人は誰かによって、個別に違ってきます。また、生命保険とか退職金の例のように受取人の指定、規定によって必要書類は個別に異なります。

次ページ以降では、財産別の手続きについて説明することとします。

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